シュタイナー学園16期生 
角田萌果さん (後編)

シュタイナー教育と聞いて思い浮かぶのはなんでしょうか?
メディアを避ける教育、テストや点数による評価のない教育、自然に親しみなんとなく自由そうな教育…。漠然と浮かぶのはそんなイメージでしょうか。
シュタイナー学園は長い時間をかけて築き上げられたシュタイナー教育独自のカリキュラムに沿い「芸術としての教育」「自由への教育」を行う小学校から高校までの一貫校です。
いわゆる「普通」とは違うこともありますが、何より大事にされていること。それは子供が子供らしく育つということではないかと思います。一人一人の子供が、その子らしく、その子に沿った成長をしていくのを手助けし見守る。それがシュタイナー教育のおおきな特徴でもあると思います。そんな意味では、一人一人の成長、一人一人の人生こそが「シュタイナー教育らしさ」なのではないかとも思います。
シュタイナー教育を受けた子供たちは何を感じ、何を考え、現在一人の大人としてどのように社会と関わり、人生を歩んでいるのでしょうか?この連載では卒業生たちのインタビューを通して多彩な一人一人の物語を少し、お伝えできたらと思います。
俳優/青年座映画放送所属/新国立劇場演劇研修所10期修了/学校法人シュタイナー学園卒業/《舞台》【トロイ戦争は起こらない】他 多数出演中

舞台俳優として活躍する角田萌果さんのインタビュー後編をお伝えします。
前編では、シュタイナー学園との出会い、学園が藤野に移転してからの生活、そして現在の萌果さんに深く影響を
与えた授業について伺いました。後編ではそんな学園生活を経て、萌果さんが現在の道に進んで行くまでをお聞きしたいと思います。

 

「人はなぜ表現するのか?」というテーマ問いをずっと考えていて、それをどういう芸術を通して表現したいかを探っていました。

●「自分史」や強い影響を受けた国語の授業を経て、12年時の卒業プロジェクトで萌果さんは詩の発表をしたと伺いました。
「卒業プロジェクトは自分で決めたテーマを1年間かけて突き詰めていき、最終的に1人50分(当時)の持ち時間を使って発表する、とても大きなプログラムです。学園では学期末に月例祭という発表会があって、全学年がその学期に学んだことをいろいろな形で発表します。オイリュトミーでカーペンターズのsingに合わせて踊ったり、和紙で絵巻物を作り「かぐや姫の物語」を朗読したり。そういう体験を通して表現することはずっと身近だったし、わたしにとっては楽しいことでした。
なので「人はなぜ表現するのか?」という問いをずっと考えていて、それをどういう芸術を通して表現したいかを探っていました。物語を書いたり、体や声を使う表現も好きだったので、一度は演劇にしようかと思ったり。でも演劇は自分一人で発表するのは難しいと思い、最終的にずっと書き続けていた詩を語りながら動きをつけてパフォーマンスをする、という形にたどり着きました。」

●その卒業プロジェクトでの発表が今のお仕事につながっていったのでしょうか?
「卒プロのことを考えていた時に演劇の本を図書館で探していて。その時に『演出家の仕事』という本を読みました。
栗山民也さんという演出家の方が書いた本でした。そこに書かれていた演劇や俳優に対する考えがとても面白く、この人は信頼できる、この人の元で演劇を学びたい!と思ったんです。栗山さんがご自身の理念をもとに設立し所長をつとめていたのが新国立劇場演劇研修所という俳優養成所だったので、そこを受けようと決めました。」

●俳優になりたい、という思いよりも栗山さんという演出家の方への思いが先行していたんですね!
「そうなんです。なので演劇学科のある大学や他の劇団に入ることは全く考えもしませんでした。もともとは、将来教師になりたいという気持ちも持っていたんです。それは、低学年の子たちに教えるのが好きだったこともあるけど、学園に好きな先生が多くいて、先生方に尊敬や憧れの気持ちがあったからだと思います。でも、シュタイナー学園の先生たちは色々な専門の職業を経て、教師になっている方が多くいらっしゃって。教師になる以前にたくさんの経験を重ねているからこそ伝えられることがあると感じていました。なので、自分も何かの道を突き詰めていきたいと思っていたんです。そんな時に栗山さんの本と出会い、演劇の道に進もうと決めました。」

 

人と人との間のコミュニケーションに関わる仕事を深めていけたらと思っています。

●難関のオーディションを勝ち抜き、演劇の道に進まれて感じたことなどありましたか?
「演劇界は特に上下関係が厳しい世界です。シュタイナー学園はそういったいわゆる「上下」関係がなかったので、戸惑ったことも多少ありました(笑)。議論していて熱が入ってくるとつい『そうそう!』と先輩にいってしまい面くらわれたり。人に対する尊敬や敬意は敬語によって表現されないと伝わらないんだっていうことを、それまであまり知らなかった(笑)。最初はそういった部分での戸惑いはありましたが、逆に強みになった部分もあります。例えば研修所の中で様々な社会問題をディスカッションするような機会もたくさんあるのですが、そういった時にディスカッションの経験がほとんどない同期の同い年の研修生は、私と比べて年上の同期に対して萎縮して意見が言えなかったり、多面的に考えることが難しかったりするようでした。学園ではディスカッションは日常のことだったので、私は同学年の同期に比べて自分の意見を抵抗なく話すことができました。
あとは今ギリシャ神話を題材にした舞台に取り組んでいますが、学園では授業を通して色々な神話を聞く機会が多かったので、背景や人物を考える上でもとてもスムーズだったり、なんてこともあります。」

【撮影:谷古宇正彦】

●俳優として、スタートをきった萌果さんの今後の目標や夢はありますか?
「俳優は舞台の上でも、舞台に立つまでの過程でも、コミュニケーションがとても大切な職業です。人と人との間のコミュニケーションに関わる仕事を深めていけたらと思っています。今社会的に子供たちのコミュニケーション能力が低下しているとも言われているらしくて。いずれは演劇的なワークを通して子供たちにコミュニケーション力を働きかけるような、そんな仕事にも取り組めたらいいなと思っています。」end

まっすぐな眼差しで迷いない言葉を話される萌果さん。シュタイナー学園で身近に表現というものに触れ、育んだ感覚は、俳優という強い個性が求められる職業に結びつき、おおきく花開いていくようでした。これから先、彼女が何を感じどんな言葉にしていくのか、話をずっと追っていきたくなるような、そんな女性でした。
萌果さん、どうもありがとうございました。
この連載はリレー形式で続いていきます。
次回は萌果さんよりご紹介いただいた川村拓希さんにご登場いただきます。
ライター 中村暁野

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