シュタイナー学園13期卒業生 佐山尚さん 後編

「シュタイナー教育」と聞いて思い浮かぶのはなんでしょうか?
メディアを避ける教育、テストや点数による評価のない教育、自然に親しみなんとなく自由そうな教育…。漠然と浮かぶのはそんなイメージでしょうか。
シュタイナー学園は長い時間をかけて築き上げられたシュタイナー教育独自のカリキュラムに沿い「芸術としての教育」「自由への教育」を行う小学校から高校までの12年間の一貫教育です。
いわゆる「普通」とは違うこともありますが、何より大事にされていること。それは子どもが子どもらしく育つということではないかと思います。一人一人の子どもが、その子らしく、その子に沿った成長をしていくのを手助けし見守る。それがシュタイナー教育のおおきな特徴でもあると思います。そんな意味では、一人一人の成長、一人一人の人生こそが「シュタイナー教育らしさ」なのではないかとも思います。
シュタイナー教育を受けた子どもたちは何を感じ、何を考え、現在一人の大人としてどのように社会と関わり、人生を歩んでいるのでしょうか?この連載では卒業生たちのインタビューを通して多彩な一人一人の物語の一端を、お伝えできたらと思います。
佐山 尚/シュタイナー学園13期卒業。日本大学芸術学部演劇学科卒業後、ヨコハマ グランド インターコンチネンタル ホテル 宴会部ウエディングに勤務。18年3月に退職し、現在は俳優活動をしている。

学生時代は演劇を学び、卒業後はウエディングプランナーとして活躍していた佐山尚さんのインタビュー後編をお送りします。前編ではシュタイナー学園入学から、家族の転勤による公立小学校への転校を経て中学より再びシュタイナー学園に戻ってきたお話を伺いました。より専門性の高まっていく高等部の授業の中で佐山さんが見つけた進路、数年の社会生活の後再びみえてきた「やりたいこと」のその後についてお話を伺います。

 戯曲選びから演出から出演から大道具制作から音響まで全部自分たちで行う卒業演劇での経験がとても大きなものでした

シュタイナー学園の高等部での生活を経て、大学では演劇を学んだと聞きました。演劇の道に進んだきっかけはなんだったのでしょうか?

「もともと人前で話をしたり発表をしたりすることは得意で好きなことだったのですが、きっかけは卒業演劇でした。シュタイナー学園の12年生は学園生活の集大成としての大きな発表が3つあります。一つは自分でテーマを決めて研究をし、発表する『卒プロ』。そして学園で1年生から取り組んでいるオイリュトミーを披露する『卒業オイリュトミー公演』。そして『12年生卒業演劇』です。卒業演劇は戯曲選びから演出から出演から大道具制作から音響まで全部自分たちで行います。この公演での経験がとても大きなものでした」

 

演目から全部自分たちで、とはすごいですね。

「学園では低学年から演劇には親しんでいるし、代々上の学年の卒業演劇を見ているので、ある意味当然のことのように取り組んでいました。僕たちの代は井上ひさしさんの『黙阿弥オペラ』を選びました。幕末から明治初期に活躍した歌舞伎世話物の名劇作家・河竹黙阿弥が、新政府にオペラを書くように命じられ、仲間が集まり大奮闘する、という話なのです。自分は歌舞伎のシメのセリフも任されていました。長い時間みんなで取り組んできて、いざ舞台で大見得をきった時に拍手喝采が起き、その経験はもっと演劇を学びたい!と思うきっかけになりました」

 

大学は日本大学の演劇学科に進まれたと聞きました。

「大学では様々なタイプの演劇に取り組んだり、刺激しあえる仲間に出会えたりすごく実りのある時間でした。ですが、卒業後のことを考えていた時にホテルコンシェルジュという職業を知って、その仕事に惹かれてしまったのです」

 

ホテルコンシェルジュとはどんな仕事なのですか?

「ホテルにおいてお客様のあらゆる要望を聞き、それに応える職業です。ホテル内の案内から近隣の観光名所の情報から航空券の手配まで、マニュアルではなく一人一人のお客様とコミュニケーションをとりながら希望を叶えていくことが求められるのでとても専門的なスキルと知識が必要で、接客のプロフェッショナルとも呼ばれています。『コンシェルジュ』がいるホテルに絞って就職活動をし、ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテルに採用していただきました」

 

実際コンシェルジュという職業についたのですか?

「コンシェルジュになるまでにはあらゆる現場を知っている必要があるので、最初からコンシェルジュになるということはありえないのです。自分は予想もしていなかったことに宴会部ウエディングに配属されました。ウエディングプランナーとしてお客様と一緒に結婚式という晴れ舞台をつくっていく仕事です。とてもやりがいもあり、上司にも仲間にも恵まれているのですが、数年勤務するうちに本当にこのままでいいのかという葛藤を抱くようになりました」

恐れず、今一度自分の表現をはじめていきたいと思っています

どのような葛藤でしょうか?

「やはり演劇をやりたいという気持ちです。仕事を考えた時に、一度表現とは別の分野にでて自分を活かしてみたいと思いホテルマンへの道に進んだところもありました。でももう少し挑戦するべきだったのではないか、という思いが湧いてきたのです。自分にとっては昔から表現をすることも触れることもずっと当たり前の日常でした。美術館にいったり、音楽を聴いたり舞台をみたり、そうした形で芸術に触れていることも素晴らしい経験なのですが、もう一度自分自身も表現をしたい、という気持ちがどんどんと強くなってきました。思い返せば就職を考えていることを告げた時、父には『お前ひよったな』と言われました。なかなかそんなことを言う親もいないかと思う気がしますが笑。また、母も『やりたくないことをやってお金持ちより、やりたいことをやって貧乏のほうが人生は豊かだと思う』とも言っていました。そんな言葉たちにも今背中を押されているような気がしています。今から再び、演劇の道を目指すのは決して簡単なことではないとわかっていますが、恐れず、今一度自分の表現をはじめていきたいと思っています」

生活そのものであった表現活動から一度は距離を置き、働く中でやっぱり表現を追求したいと決意が宿ったという佐山さん。「やりたい」と思うことに出会うこと、そして「やりたい」と思ったことを始めるのも終えるのも、そしてまた再び始めるのも、すべては自分の意思によって決め、動いていける。そんな力強さを感じるお話でした。

現在俳優活動を開始した佐山さんの活動がたのしみです。佐山さん、ありがとうございました。

この連載はリレー形式で続いて行きます。

次回は佐山さんよりご紹介いただいた高野翔悟さんにご登場いただきます。

 

 

 

ライター 中村暁野

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