シュタイナー学園14期卒業生 高野翔吾さん(後編)

「シュタイナー教育」と聞いて思い浮かぶのはなんでしょうか?
メディアを避ける教育、テストや点数による評価のない教育、自然に親しみなんとなく自由そうな教育…。漠然と浮かぶのはそんなイメージでしょうか。
シュタイナー学園は長い時間をかけて築き上げられたシュタイナー教育独自のカリキュラムに沿い「芸術としての教育」「自由への教育」を行う小学校から高校までの12年間の一貫教育です。
いわゆる「普通」とは違うこともありますが、何より大事にされていること。それは子どもが子どもらしく育つということではないかと思います。一人一人の子どもが、その子らしく、その子に沿った成長をしていくのを手助けし見守る。それがシュタイナー教育のおおきな特徴でもあると思います。そんな意味では、一人一人の成長、一人一人の人生こそが「シュタイナー教育らしさ」なのではないかとも思います。
シュタイナー教育を受けた子どもたちは何を感じ、何を考え、現在一人の大人としてどのように社会と関わり、人生を歩んでいるのでしょうか?この連載では卒業生たちのインタビューを通して多彩な一人一人の物語の一端を、お伝えできたらと思います。
高野翔悟
1993年アメリカ、カリフォルニア州のサンフランシスコ生まれ。シュタイナーシューレに1年生から入学し、シュタイナー学園として藤野移転後も9年生まで在籍。私立高校を経て、東京外国語大学東南アジア語課程ビルマ語専攻に現役合格し、2年間の休学を経て2018年3月に卒業。現在はフリーランスで杉玉クリエーターや焚火を囲むイベント、熾し火を主催。https://tabiteshigoto.com/education-3/

東京外語大学4年生、高野翔悟さんのインタビュー後編をお送りします。

前編では、シュタイナー教育の影響や、言葉よりも感性を大切にしたいというお話を伺いました。後半では旅に出たことで解消された意識や、いま関心があることについて伺いたいと思います。

会話が成り立たない人とは、共同作業をしたり、歌ったり、言語外コミュニケーションを試みてみます。衣食住のことが自分でできるから、何にも寄りかからないで自分でなんとかなるという確信があります。

  • 2年間の旅から帰って来て、違和感は解消されましたか?

「以前は、自分自身の生き方や夢があいまいな人と話すのが辛かったんですね。自分の世界観や人生、将来など、それぞれが持っているものがぶつかり合うことによって会話って基本的に成り立つと思うのです。言葉による掴みどころのない人とは話す意味がないし、会話が成り立たなかった。旅の後は、話す以外のチャンネルができたので、共同作業をしたり、歌ったり、踊ったりといったようなものでもコミュニケーションはとれるようになりました。だんだん気があう人がわかってきたことも救いになりました。

自分の世界観を拡張するためには、自分が心地よく過ごせる仲間がいて、それにプラスして新しいことにチャレンジしていくことが必要なんです。

自分の成長の実感は誰かが担保してくれるわけじゃない。だから常に模索し続けなければいけないという苦しさはありますが、一方でそうやって考えている自分が好きなんですね。

また、シュタイナー教育の中でまかれた衣食住を自分でつくるという感覚の種が、今も成長し続けて大きな自信になっています。 

 

  • 大学卒業してから、関心があることは、どんなことですか?

 

卒業論文で、修験、いわゆる山伏について書いたんです。環境問題と宗教的な人々のつながりに興味があり、暮らし方や食べているものがどこから来ているのか、どうやったら人間は生きていけるのか、持続可能な社会へどのように向かっていけばいいのかなどについて考えます。貧困は遠い世界に見えるけど、政治がいけないのか?経済がいけないのか?自分が食べているものが奴隷制を維持しているのか?どれくらいの空間軸、時間軸でそのことを見ているのか?自分や家族が良ければいいのか、世界や宇宙レベルなのか、微生物まで考えるのか?といったようにバランスよく社会的なイシューに対して向かい考えを深めていきたいと思っています。」

 

  • 自分の内面ををみつめることに対してはいかがですか?

 

「今は性に対しての好奇心が旺盛です。いまでこそLGBTの標語は市民権を得つつありますが、まだ一般的に深く浸透しているとは言えません、大学でセクシャリティーの授業を受けて、フェミニストとかジェンダーの勉強をしたことで、オープンにかつ学術的に話せるようになったことで、フラストレーションがなくなりました。物欲とか、支配欲とかで自分を満たすのではなく、感性でもっと楽しむことを味わえるようになりました。感性や身体性といったものはセクシャリティーと強く関連している部分です。だから性に関することを深く掘り下げることは、生きることの多様さや働き方に結びつきます。性的な要素を認めることは、自分を認めてあげることにつながるのです。シュタイナー教育でも、性教育的な要素を積極的に取り入れてもいいのではと思います」

シュタイナー教育を受けた人には、確かにバランスの良さがあると思います。目に見えるもの、目に見えないものへのバランスの良さですね。

  • 学園を卒業してからも、シュタイナー教育について考えますか?

「最近、シュタイナーの思想本を読んでいて、腑に落ちたことがありました。シュタイナーの考え方は実に合理的で、いかに左脳で右脳を取り込むことによって自分の自己認識を変容させるかということなんです。その感覚を言葉であらわす結果として、感覚的な次元が見えるようになるということなんですね。オイリュトミーとかはその代表例なのかもしれません。

自分がシュタイナー教育を受けたことは強いアイデンティです。ですが同時に、それによってそうではない人を他者としてみてはいけないと思っています。自由への教育と言われるシュタイナー教育を受けた人は、確かにバランスの良さがあります。目に見えるもの、目に見えないものへのバランスの良さですね。

現代は、クリエイティブの時代と言われていますから、シュタイナー教育はかなり価値があると思います。僕も機会があれば友人たちに伝えています。」

 

  • 今後、どんなことがしたいですか?

 

「一つは小説家になること。言葉に対する限界を感じながら、言葉と向き合いたいです。美しい言葉や美しい文章は想像力を広げ、その人自身と読み手の世界を拡張する可能性を常にもっています。

 言葉を紡ぐのは職業というよりも、自分の苦しみや自分が生きるために必要なプロセスを、自分の中身を出して言葉にあらわす作業としてやりつづけたいです。

もう一つは、物作りです。実際に山にいって、手を動かしてモノを作っていきたいです、今は杉玉を作っていますが、今後は家具とかもやっていきたいと思います。こちらは身体を使ってする仕事、どちらかというと感性重視の仕事ですね。

いまは都内に住んでいますが、正直、土地に余裕がある田舎のほうが精神的には居心地がいいので、近いうちにマルチベースな生活スタイルにしていきたいと思っています。シェアハウスにも関心があって、食べる、働く、作るということがどういうことかをみつめられる空間を暮らしの中で作れたらいいなと考えています。」

  • 自分探しの旅の答えが、そろそろ出そうですね?

 

「少しずつ自分の感性とあった仲間を増やしていく。同時にチャレンジして自分の感覚を拡張していく。その両輪で進んでいこうとおもいます。とりあえず仕事さがし&つくりの旅をつづけながら、のんびり進んでいこうと思います。エポック授業の影響かどうか、一つ一つ深める方が得意なので、じっくりと自分の中に落とし込みながら生きていきます」

 

シュタイナー学園で本物の芸術に触れ、言葉の限界を感じながらも、総合芸術でコミュニケーションを取っていくことを実践してきた高野さん。衣食住の基本ができているから、どんな世界にもはばたけることと思います。 今後の活躍が楽しみですね。 次回卒業生インタビューは北川璃奈さんにご登場いただきます。

 

ライター越野美樹

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