柳田啓之さん、真樹子さんご夫妻 前編

藤野のシュタイナー学園は都心から少し離れた山間の小さな町の中にあります。
自然豊かで四季の移ろいを感じられる素晴らしい環境の中、子どもたちがのびのびと過ごせるという大きな魅力がある一方、家族の暮らす場所や生活スタイルにも時に変化を要するという現実も、またあります。
仕事に通えるのか?買い物はどうするのか?田舎暮らしなんて想像できない...。学園への入学を考える保護者の方からはそんな声も寄せられています。
このインタビューでは学園にお子さんを通わせている保護者の方々のお話を通して、実はシュタイナー教育と同じくらい魅力的な「藤野」という場所と、暮らしの中で得たこと、変化したこと...様々な家族の暮らしをご紹介していきたいと思います。
柳田啓之さん、真樹子さんご夫妻

柳田啓之さん、真樹子さんご夫妻はシュタイナー学園から徒歩5分ほどの場所に建てた一軒家で、小学校4年生と2年生の2人の娘さんと暮らしています。床や柱は無垢の天然木が使われ、太陽光発電や太陽熱による温水・空調システム、雨水タンクや薪ストーブを導入したご自宅と、野菜や果樹が実る庭は、夫妻が描き一つ一つ実現してきた「暮らし」が現れている場所でもあります。

都会に住みフルタイムで共働きをしていたという生活から離れ、新しい暮らし方を選んだ理由、そして娘さんたちの教育にシュタイナー学園を選んだ理由を伺いました。

もともと2人とも環境問題に関心があって環境負荷の低い暮らしに興味があったんです

藤野に暮らし始めたのはいつ頃だったのでしょうか?

啓之さん「今4年生になる上の娘が学園に入学する年の4月5日に引っ越してきました。その前年の9月にこの土地を買うことができて、家を建ててギリギリ入学に間に合った。でも藤野で土地を探し始めたのは随分と前。5年くらい土地を探していました」

ここで暮らそう、と思ったきっかけは何だったのでしょうか?

啓之さん「もともと2人とも環境問題に関心があって環境負荷の低い暮らしに興味があった。当時は川崎に住んでいたのですが、近くに畑を借りて少しでも土に触れる時間を持とうとしたりしていました。そんな時、藤野というところでパーマカルチャー(注1)をテーマにした長屋を作るプロジェクトがあると知り興味が湧き、イベントに遊びにきてみたんです」

真樹子さん「上の娘が2歳くらいの時だったんですが、そこで藤野のシュタイナー学園にも出会いました。わたしは衝撃を受けて、こんな教育を娘に受けさせてあげたい!とシュタイナー教育について調べて、日本にあるシュタイナー学校を色々見て回るようになったんです」

啓之さん「いずれ田舎暮らしをしたいという気持ちが僕にはずっとあって、妻はその頃田舎暮らしには正直興味はなかったと思うのですが(笑)、子どもがシュタイナー教育を受けられる環境を求めていた。全国色々見た中で、藤野ならお互いの望む暮らしができるんじゃないか、という予感がして。そこから納得のできる土地をじっくり探し続け、この土地に出会った後は長屋プロジェクトを行った設計士さんにお願いし、望んでいた田舎暮らしを始めていくための家を設計してもらいました」

ハードルの高い選択ではあったけれど、それでも学園に子どもを通わせてあげたい気持ちが強かったんです

移住するとなると仕事など生活面での変化もあったのでしょうか?

啓之さん「仕事のことを考えると、都心にある会社まで通勤時間は以前よりかかるようになる。だからフレックスタイム出勤と在宅勤務という制度を使うようになりました。通勤する日は朝早く出て早く帰ってくる、という形をとっています。環境コンサルティングに関わる仕事をしていて、アフリカ等の海外出張にしょっちゅう行くので家を空ける時間も多いんです。だからこそ普段は早く帰ってくる。そうすると家族みんなで夕飯を食べ、1日の出来事を共有できるから」

真樹子さん「わたしは仕事を一度辞める選択をしました。それまでとても忙しく働いていて、上の娘を産んだ時はわたしのかわりに夫が一年間育児休暇をとったくらいだったんです。そんなスタンスのまま藤野に移住して、学園に入学したばかりの子ども達の様子を見守るのは難しいと思ったので、一度仕事から離れることを決めました。それはハードルの高い選択ではあったけれど、それでも学園に子どもを通わせてあげたい気持ちが強かったんです」

父親が一年間育児休暇というのは日本ではまだ珍しいですよね。

啓之さん「何もかもが初めてだったので大変でしたが、その一年があったことで親としての自覚が生まれ、育児を積極的に担っていくという感覚が生まれたとは思いますね」

田舎だけどすごく多様性のある町

そうして移住されてみて、藤野、そして学園での暮らしにどんなことを感じられたのでしょうか?

真樹子さん「藤野という町の環境の良さ、そして学園の学びの豊かさは想像以上のもので、子どもにすごく変化がありました。身体をいっぱい使って遊ぶので身体能力があがったし、リズムのある生活を通して健康な身体が育っている。何より本当に楽しそうで。繊細で保育園に行くのを嫌がっていた上の娘が、学校大好きといって通う姿が嬉しかったですね」

啓之さん「田舎だけどすごく多様性のある町。自由な働き方やアーティストも多く、住んでみるとイベントがたくさん。思っていた以上に大人も子どもも楽しむのに事欠かない町でした」

 

決断と変化を経て、お互いの望む「暮らし」を形にし始めた柳田さんご夫妻。後編では新しい「暮らし」を通して生まれた新しいプロジェクトやこれからについてもお聞きします。

 

(注1)

エコロジカルデザイン環境デザイン分野の用語であり、自然のエコシステムを参考にし、持続可能な建築や自己維持型の農業システムを取り入れ、社会や暮らしを変化させる総合的なデザイン科学概念。

 

 

ライター 中村暁野

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